学生時代、西荻窪にあった学生寮に住んでいた。
築ウン十年のボロボロの建物には、野郎ばかりが数十人住んでいた。
トイレも風呂も共同だったが、部屋は各自に個室があてがわれていたので、
かろうじてプライベートの時間は、リラックスして1人のんびり過ごす事が可能だった。
当時ボブ・マーリーに完全にハマっていた俺は、その日も深夜遅くまでお気に入りのステレオで大音量で聴いていた。
といっても、ここは壁が薄い建物、隣人から苦情が来ないようにヘッドフォンで聴いた。
ジャマイカのリズムに乗って気分が高まってきた俺は、風呂上がりにもかかわらず、衣装(ただのレゲエっぽい格好)に着替え、最終兵器の“ライブ盤”を取り出した!
こいつを聴いてる時は、いつだって自分がボブになれのさ。
大観衆が見守る中、すっかりボブになりきった俺は、激しいダンスを踊り、頭を左右に振り、ギターソロの時はちゃっかりギタリストに変身し、ドラムが格好イイ部分ではドラマーになり、そして最後はやはりボブになって口をパクパクさせながら汗だくで熱唱した。ボルテージは最高潮!
一曲一曲が終わる度に聞こえる観客の声援に、俺は両手をあげて答えた。
そ、その時、背後から突然俺の肩に手を触れるヤツが現れた。現実からすっかり遠い所にいた俺はビックリして、思わず「うわぁ~!」と叫んでしまった。
振り向くと隣の部屋の奴が、いつの間にか俺の部屋に上がり込んでいたのだ。
しかも、我にかえって入口を見ると、廊下に寮生が全員集まっていて、みんなが俺の部屋を覗き込んでいる。
いったい何事かと思って、ヘッドフォンを外すと、な、ぬわぁんと、スピーカーから大音量でボブ・マーリーが響き渡っているではないか!?
どーやら切り替えスイッチを間違えていたようだ。
どうやら、深夜に轟く爆音に怒って集まってきた寮生達も、俺のあまりのステージっぷりに、なかなか声をかけれなかったそうだ。
俺は、寮を出るまでの残り2年半、みんなから「ボブ」と呼ばれた。
ボブと呼ばれた男
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